なぜ、あの人は自死を選んだのか。「遺された私」が見つけた、一つの「答え」【あさのますみ】《特別寄稿》
『逝ってしまった君へ』著者・大切な友人の自死を経た「遺された人」のこれから
私は、感情をなるべく動かさないよう気をつけながら、ランキング20位以下の話題を選んで話した。興味が持てないことを悟られないため、ことさら明るく振舞った。すべてが分厚い膜のむこうの出来事だった。
そういう日々が、どれくらい続いただろう。仕事の帰り、いつものようにひとりになったとたんあふれ出す涙を止められないまま、唐突に思った。
――この気持ちを、書き留めておこう。
私が今、泥の中であがいているのと同じように、苦しくて、呼吸すらうまくできなくて、でも誰にも話せなくて、孤独を感じている人がきっといるはずだ。その人たちのために書こう。それから、逝ってしまった友人に対する思いも、しっかり見つめて言葉にしよう。
死者になったとたん、友人との思い出が勝手に形を変えていくことに、私は戸惑いを感じていた。思い出をなぞればなぞるほど、そこには無意識に解釈が加わり、いつしか劣化コピーのようになっていく。そのことに違和感を持てる今のうちに、写真を撮るみたいに、すべてをなるべくそのまま残しておきたい。
そんな思いで書いたのが、『逝ってしまった君へ』だ。
友人の訃報を知った日から今日までの心の動きを、一つひとつ言葉に写し取った。誰にも話せなかったことも、死を経てたどり着いた思いも、可能な限りまるごと書いた。あまりにそのまま書いたので、私は今も、『逝ってしまった君へ』を客観視することができない。誰かにとってこの一冊が、慰め、ではなく、助け、というほど大げさでもなく、ただ、その人の痛みに黙って頷き返すような、そんな存在になれたらと願っている。